
住宅展示場は、思い立った日に出かけても見学できます。ただ、順番を考えずに回った方と、決めてから回った方では、持ち帰るものがまるで違います。住宅営業の立場で長く展示場に立っていた経験から言うと、この差は知識の量ではなく、準備の順番から生まれています。
ここでは、展示場に行く前に決めておくことと、現地で何をどの順に見るかを、順を追って整理します。
第1段階:行く前に決めておく3つのこと
1.検討している広さを決める
展示場の建物は、実際に建てる住宅より広く設計されていることが少なくありません。見学者に開放感を伝えるための仕様で、天井の高さも建具の寸法も、標準とは異なります。
そこで、検討している延床面積を先に決めておきます。延床面積とは、各階の床面積を合計した広さのことです。これを決めてから見学すると、案内の途中で「この建物は何坪ですか」と聞けます。40坪を考えている方が60坪の建物を見ると、間取りの感覚がずれたまま打ち合わせに進むことになります。
2.入居したい時期を、半年単位で決める
展示場では必ず入居の希望時期を聞かれます。半年後と3年後では、提案される内容がまったく変わります。急ぐ方には規格化された住宅、時間のある方には設計から起こす住宅、という振り分けが現場では自然に行われています。
正確な月まで決める必要はありません。「来年の春ごろ」という幅で構いません。幅で伝えると、相手も幅で提案してくれます。
3.アンケートをどこまで書くか決める
モデルハウスに入るとき、ほとんどの会社でアンケートを求められます。これに記入すると、その後に電話や郵便が届きます。見学そのものは記入なしでもできる場合がありますが、間取り図や見積りを受け取りたいのなら、連絡先は必要です。
そこで、書く範囲を先に決めておきます。連絡を受けても構わない会社には記入し、まだ比べている段階の会社には、氏名と連絡先だけにとどめます。年収や勤務先まで最初から埋めると、検討の入口で営業の優先度が決まってしまいます。
連絡の手段を指定できることも覚えておくと役に立ちます。「連絡はメールでお願いします」と伝えると、その通りに扱ってくれる会社が増えています。対応の仕方そのものが、その会社の姿勢を測る材料にもなります。
第2段階:どの展示場から回るか決める
ひとまとめに展示場と呼ばれていますが、中身は2つに分かれます。
- 総合住宅展示場…一か所に複数の会社のモデルハウスが並ぶ。同じ日に比べられる
- 単独のモデルハウス…1社が自社の建物だけを公開する。工務店に多く、細かく聞ける
順番としては、比べる段階では総合住宅展示場、絞り込んだあとは単独のモデルハウス、という流れが無駄が少なくなります。最初から単独のモデルハウスだけを回ると、その会社の中だけで話が進み、他と比べる機会を失います。
そして、1日に回るのは2棟までにとどめます。説明を聞く時間は1棟で1時間を超えます。3棟目に入ると、どの会社がどう言ったかが混ざりはじめ、比べるために出かけた意味が薄れます。
第3段階:建物の中で見る順番
見えない部分を先に聞く
内装や設備は、どの会社でも後から選び直せます。一方で構造や断熱は、建ててから変えられません。そのため、案内が始まってすぐの段階で次の点を聞いておきます。
- 構造は木造か鉄骨造か。木造なら工法の名前
- 断熱材の種類と厚み。窓はガラスが何枚か
- 標準仕様と、追加費用がかかるオプションの境目
- 保証の年数と、点検に来てもらえる間隔
- 設計の担当者が、打ち合わせに同席するかどうか
最後の項目は見落とされがちです。営業担当だけで話が進む会社と、設計の担当者が早い段階から入る会社では、間取りの詰め方が変わります。
なお、工務店が自社の技術として何を標準にしているかを先に読んでおくと、展示場で聞いた説明がどの程度のものなのか、その場で見当がつきます。木の構造や断熱の考え方を自社の言葉で説明している会社と、設備の話に終始する会社では、同じ質問への答え方が違ってきます。
内装と設備は、そのあとで見る
見えない部分を聞き終えてから、内装と設備を見ます。順番を逆にすると、目に入る華やかさに引かれて、構造の質問が最後まで出てこなくなります。
このとき、どこまでが標準に含まれるかを部屋ごとに確かめます。展示場の建物は上位の仕様で組まれていることが多く、同じ見た目をそのまま選ぶと費用が変わります。
最後に、検討している土地に置けるかを聞く
展示場の建物は、平らで広く、日当たりのよい区画に建っています。実際に住宅を取得する土地が、同じ条件とは限りません。北側に道路がある土地、間口が狭い土地、隣家が近い土地では、同じ間取りがそのまま入らないこともあります。
見学の終わりに「この間取りを、検討している土地に置けますか」と聞いておくと、話が一歩進みます。土地の条件に合わせて図面を引き直せる会社かどうかが、この一問で見えてきます。規格化された住宅を扱う会社では、変更できる範囲が限られていることも分かります。
第4段階:資金の話になったときの順番
見学が一巡すると、ほぼ確実に資金の話になります。これは売り込みではなく、建てられる金額の幅が決まらないと提案ができないためです。年収と自己資金を聞かれ、その場で概算の返済額を出してもらう流れが一般的です。
ここで答えに詰まると、相手の出した数字をそのまま受け取ることになります。借りられる額と、無理なく返せる額は別ものです。住宅ローンの仕組みを先に押さえておくと、提示された返済計画が自身の家計に合っているかを、その場で判断できます。
順番としては、展示場に行く前に返済の考え方だけ押さえ、現地では概算を受け取るだけにとどめます。その場で借入先まで決める必要はありません。
第5段階:帰ってからの順番
建物を出たら、その場で短くメモを残します。構造、断熱、標準の範囲、担当者の印象の4つだけで十分です。帰ってから見返すと、会社ごとの違いがはっきり残っています。
そのあとで、受け取った資料を同じ項目ごとに並べ直します。会社単位で資料をめくると、それぞれの会社の強みに引っぱられます。項目単位で横に並べると、違いが数字と言葉で見えてきます。
まとめ:順番を決めると、判断が軽くなる
住宅展示場は、完成した暮らしを眺める場所ではなく、複数の会社を同じ日に並べて比べる場所です。行く前に広さと時期とアンケートの範囲を決め、総合住宅展示場から回り、建物の中では見えない部分を先に聞く。この順番を決めておくだけで、現地での判断はずいぶん軽くなります。
順番が頭に入っていると、その場で急かされても落ち着いて答えられます。決めるのは帰ってからで構いません。